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金星の動きと形の変化
中学校理科授業における実践


まとめの授業

 いよいよ、授業のとりまとめの日がやってきた。生徒たちの目視による位置の変化、双眼鏡、天体望遠鏡による形や大きさの変化に基づいて、観察結果を確認した。山田は、ある生徒のスケッチを取り出して、1月以降、金星の位置と形の変化を黒板に掲示した。その図に示された観察結果について、生徒一人ひとりの野外観察と照らし合わせ、わかったことがらを確認した。

 生徒たちはこれまでの学習で、「金星は地球と同じように、太陽系の惑星であり、太陽の周りを回っている」ことを確認している。そこで、この授業の課題を、「自分たちが観察を行ってきた1ヶ月の間に、金星はどこを動いていたのだろうか」とし、蛍光色の発泡スチロールの球にブラックライトの光を当てて動かしていくモデル実験を行った。

 モデル実験では、生徒は発泡スチロール球の場所を変えて、自分がスケッチした金星の形と一致するところを丹念に探していく姿がみられた。しかも、自分の観た金星とそっくりの欠け具合になるまでこだわってである。モデルを用いて金星の動きを理解する授業は、これまでに実践例が多くあるが、本時の授業では、自分の観察した金星の位置を確認しようという探求行為が自発的にでてきたのだ。山田はこの生徒の予期せぬ行動を眺め、大きな満足感を抱いていた。

 交流会では、金星の位置が西の空の低い高度へ移動した事実と、欠け具合や大きさが増したという事実から、「金星が東方最大離角から内合へと向かっていった」という結論にいたることができた。ある生徒は、「金星が1ヶ月の間に、たったこれだけでも、太陽の周りを動いていたことがよくわかった。地球も同じようにして長い時間をかけて、太陽の周りを動いていると思うと、すごいことがわかったような気がする。」と話していた。また、天体望遠鏡による観察では、時間が経つと金星が視野の外に出てしまうことから、「地球が自転していることも実感できた」と発言した生徒もいた。これも生徒が発した予想外の言葉であった。


[はじめに]
[1.金星の満ち欠けを観察しよう]
[2.双眼鏡を使ってみませんか]
[3.天体望遠鏡はすごい!]
[4.指導計画]
[5.双眼鏡とにぎりこぶし法でチャレンジ]
[6.天体望遠鏡の組み立てキットがあった]
[7.天体望遠鏡を作る]
[8.やせ細った金星]
[9.まとめの授業]
[10.生徒の反応]
[11.授業をおえて]
[おわりに]