イスア

緯経度
北緯 65°10′ (+65.17°)
西経 50°00′ (-50.00°)
, イスア(地図より)

世界最古の堆積岩 ~グリーンランド・イスア~ (38億年前; 8歳)

これだけ古い年代の岩石が地表で見つかること自体,とても珍しいことなのですが、それが堆積岩であるということは、この時代すでに地球に‘海’が存在したことの証となります。
また、縞状鉄鉱床の存在や,炭素同位体比のずれから、最古の生命活動の痕跡である可能性もあります。
‘地球’というより本来なら‘水球’と呼ぶべき、この水の惑星の太古の姿を垣間見させてくれる原初の風景がそこに拡がっています。
誕生して間もないころの地球の姿を探るため、地質学者は最古の地層を求めて世界中を調査してきました。1970年代に,グリーンランド西部のイスアに分布する地層や岩石の年代が測定されました。得られた値は約38億年前という古いもので、世界最古の堆積岩と考えられます。
[Photo by 増田俊明, 静岡大学理学部教授]
グリーンランド西部には,38億年前の花崗岩や片麻岩が広く分布していて,その中に,変成度の低い堆積岩がところどころ分布しています。イスアの地層は比較的温度が低い状態におかれたため、地層が堆積したときの情報が残っています。
[Mojzsis and Mark, 2000, in ‹GSA Today›, 10, 4, 3]
イスアの地層には礫岩が含まれていました。礫岩とは,地表に露出した岩石が河川や土石流によって運ばれて堆積した岩石です。礫岩に含まれる礫の種類から,当時すでに,大陸地殻ができていたことがわかります。
[Photo by 増田俊明, 静岡大学理学部教授]
イスアからは,海底に噴出した溶岩も見つかっています。枕状溶岩です。玄武岩質マグマが海底に流れ出すと,丸みを帯びた塊となり、それらが積み重なって岩体をつくります。イスアで枕状溶岩が発見されたことは,当時海があったという直接的な証拠です。
[Photo by 増田俊明, 静岡大学理学部教授]
イスアに分布する縞状鉄鉱床の露頭です。縞状鉄鉱床とは,磁鉄鉱と石英粒子が繰り返した地層です。縞状鉄鉱床は微生物の作用で形成されたのではないかという説があり、微生物様の化石の探査も行われました。日本の研究グループは、縞状鉄鉱床を連続的にサンプリングして詳しい分析を行いました。
[Photo by 増田俊明, 静岡大学理学部教授]
詳しい分析の結果、縞状鉄鉱床には、厚さ数mmのリン酸カルシウムに富んだ層が2枚みつかりました。リンは生命に必須の元素なので,リンの濃集は生命の存在を期待させます。。有機物の分析も試みられました。米国の研究者たちは、イスア地域のリン酸カルシウムに含まれる炭素の分析を行って、生命活動の痕跡が認められると発表しています。
[画像提供 : 高野雅夫]
縞状鉄鉱床には,厚さ数mmのクロムに富んだ層が発見されました。“クロムは小惑星の衝突でもたらされたのではないか” という説があり、小惑星に多いイリジウムの分析や、クロムの同位体比の測定が試みられました。クロムに富んだ層は、はたして、天体衝突事件があったことを物語っているのでしょうか?
[画像提供 : 高野雅夫]
1989年,カナダのノースウェスト準州で40億年前の片麻岩が発見されました。これはイスアの岩石よりも古い年代だったためたいへん注目されました。
[画像提供 : 生命の海科学館]
アカスタ片麻岩は,イスアの礫岩と違い,地層ができてから高温高圧にさらされたため、地層が形成された当時の環境や生命活動を読み出すことは困難でした。
[画像提供 : 生命の海科学館]
Mojzsis, S.J. and Mark, T.: Vestiges of a Beginning: …, ‹GSA Today›, vol. 10, no. 4, 2000, p.2-6.