P/T境界

緯経度
北緯 35°35′ (+35.58°)
東経 137°02′ (+137.03°)
, 犬山

P/T境界 ~古生代の終わりの大量絶滅~ (2億5000万年前)

地球史上、最も大規模な生物の絶滅がこのころ起こり、三葉虫やサンゴ、アンモナイトなど海中の生物の95%以上、陸上をあわせると全生物種の70%が死滅したといわれます。その原因としては、地球のマグマ活動の活発化による大規模な火山噴火や超大陸パンゲアの分裂、海中環境における「酸欠状態」などが考えられています。
この酸欠状態については、たとえば日本の犬山の黒ずんだP/T境界層がそのことを雄弁に物語っています。一見何でもないような身近な地層(縞模様)も、地球史上の大事件を記録した‘地球のレコード’なのかもしれないと思うと、身のまわりの風景を見る眼もかわってくるかもしれません。
約2億年前から,はるか赤道太平洋にあった海洋底堆積物が,次々と陸側の地殻に付加して,日本列島は成長してきました。西南日本に分布するチャートは,ジュラ紀のプレートの上に堆積した地層です。このチャート層に,地球史最大規模の生物大量絶滅の謎を解く鍵が残っています。愛知県岐阜県の県境を流れる木曽川河床で,問題の地層は発見されました。
化石の記録を手がかりに生物の多様性を調べていくと、地質時代の境界で,多くの生物が一斉に絶滅しています。生物の大量絶滅事件です。なかでもP/T境界 (ペルム紀/三畳紀境界,すなわち,古生代と中生代の境界)の大量絶滅事件では、多くの生物が絶滅へと追いやられました。
[based on Signor, P. W., ‹Ann. Rev. Ecol. Syst.›, 21, 1990, p. 509-539]
古生代の海には三葉虫類、筆石類、コケムシ動物、ウミユリ、フズリナなどが生息していました。これらの多くがペルム紀末に絶滅しました。
[柴田慎. 情報・知識 Imidas 2002. 東京, 集英社, 2001, p. 25]
大量絶滅によって多くの生物種が生態系から消え去ると、その生態的隙間を埋めるように,次々と新しい生物種が出現しました。中生代にはアンモナイト類、二枚貝類などが大きく繁栄しました。
[柴田慎. 情報・知識 Imidas 2002. 東京, 集英社, 2001, p. 25]
中国南部のペルム紀から三畳紀の地層を調べていくと、ある層準で突然,多くの生物化石が産出されなくなります。このことは,生物の大量絶滅が,ある短い期間内に急激に起こったことを物語ります。
[based on Jin et al., ‹Science›, 289, 2000, 432-436]
遠洋深海底堆積物のチャートは,細かい石英粒子がたくさん集まった緻密な岩石で,珪質の殻をもつ放散虫の遺骸が海底に降り積もってできたものです。フッ酸という強い酸でチャートを処理すると,放散虫の微化石を取り出すことができます。微化石を電子顕微鏡で調べると、種が特定できます。放散虫は進化が速いので、産出する化石の形態から,地層に年代をいれることができます。
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ペルム紀末から三畳紀初期にかけて、赤みを帯びたチャートは堆積しなくなり、かわって緑色から暗黒色の珪質泥岩ないし有機質の泥岩が堆積していることが,放散虫化石を使った研究でわかりました。この2つの地層は,海洋に溶け込んでいる酸素濃度が低下したということを物語ります。“当時の海洋が酸素欠乏状態になったことが生物の大量絶滅を招いた” という説が提案されています。
名古屋大学の篠原久典教授らが、最近,西南日本のペルム紀末の地層を分析し、フラーレンという物質の分子を検出しました。アメリカの研究者も,フラーレンを取り出し、さらに,希ガスの同位体比を測定して地球大気とは異なる組成であるという結果を提出し、“ペルム紀末の生物大量絶滅事件も天体衝突が原因である” と論じました。
[by Hisanori Shinohara]
情報・知識 Imidas 2002. 東京, 集英社, 2001, p. 25.
Jin et al.: ‹Science›, 289, 2000, 432-436.