全球凍結

緯経度
南緯 19°39′ (-19.65°)
東経 17°20′ (+17.33°)
, オタヴィ (ナミビアの氷河堆積物産地)

スノーボール・アース = 全球凍結 (7億年前; 39歳)

地球はいつの時代も、いまあるような「青い地球」であったわけではありません。27億年ほど前、酸素汚染で海が酸化鉄 (赤サビ) で一杯になった時代 (→項目5) には‘赤い地球’であったろうし、そもそも4億年前に陸上に植物が進出するまでは‘緑の地球’は存在しませんでした (→項目7) 。
さらに7億年ほど前には、地球が熱帯地方まで全部氷に覆われたという超氷河期、全球凍結時代があったとされ、この‘雪ダルマ状態’ = ‘スノーボール・アース’ = ‘白い地球’仮説が大きな論争の的となっています。
本当にそんなことが地球の歴史にあったのでしょうか ? そもそも地球全体が凍ってしまったら、生物は一体どうやって生き延びたのでしょうか ?
“約7億年前に地球全体が凍結した”? 地球史の謎解きから,そんなとんでもない仮説が飛び出して、活発に論争が繰り広げられています。7億年前の地球は,こんな姿だったのでしょうか? (大陸は現在の姿ではなく,当時の超大陸ロディニアです)
[川上紳一・東條文治, “7億年前の凍てついた地球 …”, ‹Nature Science›, Vol. 2, No. 5 (2002-05号), 2002, p. 90]
もし地球表面が全面的に凍りついたら,木星の衛星エウロパのような姿だったに違いありません。
[NASA]
7億年前にできた地層には多くの謎があります。最初に注目されたのは、氷河堆積物の世界的分布です。この時代の氷河堆積物は世界各地に分布していて、陸地のほとんどが氷床で覆われたのではないかと考えられます。岩石に残った地磁気から当時の緯度を推定した結果,氷河堆積物の一部は赤道地域で形成されたことが示唆されました。
[Harland, W.B]
氷河堆積物は,細かい粘土と大きな礫が渾然と堆積していますが,土石流でも似た堆積物が残ります。そのため,氷河が運んだ地層なのか、単なる土石流堆積物なのかを巡っても、長いあいだ論争が続きました。
氷河堆積物だけでなく,その間に縞状鉄鉱床が挟まっています。縞状鉄鉱床は,本来は地球が若いころ,つまり,大気や海洋に酸素が乏しい時代に形成された地層です。7億年前といえば,すでに地球表層には酸素が満ちていたはずです。なのになぜ,縞状鉄鉱床が堆積したのででょうか? 海洋が全面的に凍結して,氷の下の海では酸素が乏しくなったからではないでしょうか?
[photo by 白尾元理]
7億年前の氷河堆積物は,その上が直接,縞状炭酸塩岩で覆われていることも大きな謎でした。縞状炭酸塩岩は,うねった縞模様を持つことから,ストロマトライトという,熱帯珊瑚礁のような温暖な気候でできる地層だということがわかります。氷河が発達した寒冷な気候から,突然,熱帯の気候へ移り変わったのでしょうか?
[by Daniel P. Schrag (権利未取得)]
気候学者たちは、“地球表面が全面的に凍結するようなことはない” と主張しました。いったん地球が凍結したら,太陽からやってくる光をほとんど反射し、地表温度が-50℃まで下がって,温暖な気候には戻らないはずです。しかし,火山から脱ガスする二酸化炭素が大気中に蓄積して現在の350倍に達すれば、凍結した地表も融解するのです。
写真は,現在の噴気現象です。温泉や火山の火口から,二酸化炭素などの温室効果ガスを含む火山ガスが吹き出ています。
[photo by 山本啓之]
氷河堆積物を覆う縞状炭酸塩岩は、凍結した地球を温暖にもどした二酸化炭素が炭酸カルシウムになって沈殿したものでしょうか。そう考えると、氷河堆積物と炭酸塩岩の組み合わせは合理的に解釈できます。
地球の歴史を調べると、7億年前に地球表面が全面的に凍結してまもなく,多細胞動物の化石ができています。気候の寒冷化と温暖化のくりかえしが、動物の爆発的多様化事件の引き金なのでしょうか。
1960年代に,氷河堆積物が世界各地に分布していることがわかり、動物の起源との関連性が注目されました。図は,当時製作された化石の出現時期と氷河時代の時代関係です。新たな仮説の提示によって、地球環境と生物進化の関連性が,改めて見直されるようになりました。
地球の歴史の中でも,8億年前から6億年前にかけては、気候変動,生物進化、超大陸の形成や分裂など、大事件が続いています。7億年前に地球表面が全面的に凍結したとすれば、地球の歴史についても大きな見直しが必要になるでしょう。