ビェルクネス仮説

ビェルクネス仮説。上がラ・ニーニャ、下がエル・ニーニョ時の海水温垂直分布。
ビェルクネス仮説。上がラ・ニーニャ、下がエル・ニーニョ時の海水温垂直分布。
川上 1995. p.44
1969年になって、海洋変動であるエル・ニーニョ現象と、大気圧変動である南方振動を結びつける仮説がビェルクネスVilhelm Frimann Koren Bjerknes, 1862–1951, ノルウェーの気象学者〕によって発表された。
以後、エル・ニーニョ現象と南方振動は密接に関連した現象であると考えられるようになり、エル・ニーニョ‐南方振動(el niño‐southern oscillation)の頭文字からENSOと呼ばれるようになっている。
ビェルクネスはペルー沖の海水が低温であるのは、貿易風によって暖まった表層海水が西へ運ばれ、そこへフンボルト海流が流れ込んでいるからであると考えた。貿易風によって西太平洋と東太平洋の表層海水温に傾度が発生し、温暖な西太平洋で上昇気流が発生し、寒冷な東太平洋では下降流が発生する。地上付近の貿易風は気圧の高い東太平洋から西太平洋への大気の流れであり、上空ではこの流れを補償するような西風が吹く。ビェルクネスはこのような赤道面に沿う循環が存在すると考えた。この循環が活発な時期と停滞した時期が繰り返し訪れると、ウォーカーの発見した南方振動が説明できる。そこで、ビェルクネスはウォーカーにちなんでこの大気循環をウォーカー循環と名づけたのである。ビェルクネスの説明によって、エル・ニーニョ現象と南方振動は、大気海洋システムの変動の現れであるという理解が広まり、エル・ニーニョ現象の総合的な研究の発展に多大な影響を与えた。

語句説明:ラ・ニーニャ現象

ビェルクネスの仮説によると、南方振動がウォーカー循環の強弱によって引き起こされていることになる。貿易風が弱まった時期にエル・ニーニョ現象が現れるが、逆に貿易風が強まるとペルー沖の海水温は低温になる。低温状態がとくに強まった状態は、エル・ニーニョ現象に対して、ラ・ニーニャ現象と呼ばれている。ラ・ニーニャはスペイン語で女の子という意味である。
文献
Bjerknes, J. 1969. Atmospheric teleconnections from the equatorial Pacific. Monthly Weather Review. 97, 163–172.
川上紳一. 1995. 縞々学—リズムから地球史に迫る. 東京, 東京大学出版会.