オーストラリアでの大発見

アクラマン・クレーターの周辺。ズーム
アクラマン・クレーターの周辺。
青い円はエジェクタ、緑の円はスフェルールの発見地。
衝突堆積物周辺の地層。人がいる付近の白い地層の中に衝突堆積物がある。上下の地層は酸化鉄により赤褐色を呈しているが、衝突堆積物は水はけがよいので、周囲の地層は還元的になり、白色となる。ズーム
衝突堆積物周辺の地層。人がいる付近の白い地層の中に衝突堆積物がある。
上下の地層は酸化鉄により赤褐色を呈しているが、衝突堆積物は水はけがよいので、周囲の地層は還元的になり、白色となる。
衝突堆積物層の拡大写真。中央の褐色層が衝突堆積物層。ズーム
衝突堆積物層の拡大写真。中央の褐色層が衝突堆積物層。
天体衝突構造、衝突で飛び散った放出物(エジェクタ)、テクタイト(インパクト・メルト)などの、天体衝突の証拠は、これまでに世界各地で発見されている。
しかし、K/T境界粘土層とユカタン半島の衝突構造のように、衝突点の地質構造とそこから飛び散ったエジェクタ層がともに発見される事例はほとんどない。現在のところ、ユカタン半島の事例をのぞくと唯一、アクラマンの衝突構造だけである。その発見もたいへん劇的だった。
アメリカ合衆国の地質学者ウィリアムズ博士は、人工衛星画像の解析中に、サウス・オーストラリアのアクラマン湖を中心にした円形の構造を発見した。彼はこの構造が天体衝突によるものではないかと考えた。それを証明するには天体衝突の物証であるシャッターコーンや衝撃でできた特異な鉱物を発見する必要がある。
ウィリアムズはアクラマン湖周辺をさまよい歩き、岩盤が露出している場所を丹念に探してまわった。そうしてついに岩盤が露出している場所を発見することができた。そこで採集された岩石は、シリカに富んだ火山岩デイサイトで、表面は風化で赤茶けていたが、顕微鏡観察の結果、衝突でしかありえないほどのの衝撃を受けた鉱物粒子が発見された。こうして、アクラマンの円形構造が天体衝突構造であることが裏づけられた。
一方、地質学者のビクター・ゴスチン博士は、そこから約200 km東のフリンダース山地を調査していた。そこは原生代後期の頁岩が厚く堆積しており、近くからは最古の多細胞動物・エディアカラ動物群の化石が多数発見されていた。
ゴスチンは、火山灰層を探していた。火山灰層が見つかれば、Rb‐Sr法やK‐Ar法などの放射性同位体年代が測定でき、この地域の地層の正確な年代がわかるからだ。
彼はフリンダース地域を丹念に調査し、厚さ数cmの火山灰層と思われる地層を発見した。実験室で詳しく調べると、その岩石は角礫化していたが、組成はデイサイト質だった。その顕微鏡観察の結果、火山からの放出物ではなく、衝突によって放出された地層であることがわかった。しかもその岩石は、そこからはるか西に広く分布する13億年前のデイサイトの岩体からのものだった。
ゴスチン博士の発見とウィリアムス博士の発見は、そろって‹サイエンス›に掲載され、たいへん話題となった。6億年前の出来事にもかかわらず、衝突構造と、そこから飛び散ったエジェクタとが、そろって発見されたからである。
文献
Gostin, VA; Haines, PW; Jenkins, RF; Compston, W; Williams, IS. 1986. Impact ejecta horizon within Late Precambrian shales, Adelaide geosycline, South Australia. Science, 233, 198–200.
川上紳一. 1991. オーストラリアにインパクトクレーターを訪ねて. 地質ニュース, (444).
Wallace, MW; Gostin, VA; Keays, RR. 1990. Spherules and shard‐like clasts from the late Proterozoic Acraman impact ejecta horizon, South Australia. Meteoritics, 25, 161–165.
Williams, GE. 1986. The Acraman impact structure: source of ejecta in late Precambrian shales, South Australia. Science, 233, 200–203.